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・活版印刷の制限と今後の目標

  活版印刷はオフセット印刷やオンデマンド印刷と比べると制限が多いんですよ。書体の種類も少ないですし、そもそも現存してない活字も多くなってきてしまっています。オフセットやオンデマンドは、活版印刷ほど書体などの制限がないですし、業者とお客さんがそれほどやりとりせずに済むので、お客さんにとって楽なんです。私個人の意見でいうと、それは少し寂しいな、と思っています。でも、制限が多いことも確かなので声を大にして活版でやってよ、とはなかなか言えないというのも本音です。だからまずは、活字を保存するとか、今残っていない母型を復活させること、これは今の一番の目標です。

・若いクリエイターと活版印刷

  最近若いデザイナーさんやクリエーターさんが少しずつ活版印刷に興味を持ってくれているみたいなんですが、とてもうれしいですね。20代の若い人がお店にきてくれて、さらに活字を依頼されると元気になります。

 とはいえ「活版に興味のない人や興味があってもよく知らない人が、まだまだ多い」と感じています。そういう人たちにこれはいいと示せるなにかを提示したいですね。

 私一人だけでは限界があるので、活版業界のいろいろな人を巻き込みつつ、私自身も表舞台に立って頑張らないといけないな、と覚悟を決めているところです。

 ただ一つ懸念があり、活版印刷が間違って伝わってないかというのが不安なところで、1番は印刷の仕方です。昔から言われているんですが、へこみのことなんです。印刷してへこませているものを活版と言われてしまって、私としてはそれが少し寂しい。実は職人の腕の見せ所はどれだけ印刷するときにへこんでいないかなんです。そういった感覚で印刷すれば活字の書体が本来持つ線の太さ、細さが出ますし、新聞だって昔は活版でやっていたんですから、薄い紙に強い圧をかけたら穴が開いてしまう。柔らかい紙だとどんなに気をつけていても、自然にへこんでしまうんです。結局へこませることは誰でもできるんです。強く圧をかければいいだけの話なので。恐らく活版に興味がある人は2パターンの人が存在すると思っています。一つは書体や文字の美しさ、レイアウトに興味がある人、もう一つは印刷の美しさに興味のある人。後者の人たちに間違って伝わってしまっていると感じています。私はへこませることに関して否定はしませんし、ご依頼があればやります。これから活版業界を盛り立てていくには新しい感覚は必要だと思っていますし、いろんな伝え方、残し方がありますから。ただ元々は違うんだということは伝えたいですね。

 風合いというのは出すものではなく、自然と出るものだと考えています。柔らかい紙だとどんなに気をつけていても、自然にへこんでしまうんです。また違うやり方なのではないかとも思っていますが、この意見が進歩を止めているような気もしています。

 活版がなぜ新しいものを取り入れられないんだろうと自分なりに考えたのですが、昭和50年代、オフセット印刷が主流になってきたくらいで活版が文化として止まってしまったんです。

 止まってしまった文化にその後なにが起こるかと言うと、「保存」という言葉が生まれるんです。そうなってくると、その形を残すために新しいものを受けつけなくなってしまうんです。

 活版でいえば、最近また若いクリエーターさんが興味を持ち始めて、文化として再び動き始めたのですが、古きよき活版を昔のまま残そうというグループと昔のやり方に新しい考え方を取り入れようとするグループの2つに分かれている。それが活版業界の現状だと思います。

 ただ、私としても再び活版が注目されて動き出した以上は、昔から受け継がれてきた活版の本当の姿を伝えつつ、新しいもの、考え方を取り入れて活版をもっと生き生きしたものにして、活版印刷がみなさんの生活により浸透するように頑張りたいですね。